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(福祉用具)

正しく使って自立支援

〜需要増す福祉用具レンタル 

 介護保険の導入以来、福祉用具レンタルの利用が急増しています。適切な用具を正しく使えば、高齢者の自立支援に役立ちますが、必ずしもそうはなっていないのが現状です。厚生労働省は、利用の目安を示すガイドラインを公表したが、それで適性化は進むのでしょうか。

  散歩が新たな日課に                        「ええ天気やねぇ。外の空気が吸えるんが何より」。五月下旬の良く晴れた午後、兵庫県温泉町の自宅前で、車椅子に乗った岡文枝さんは目を細めて、話してくれました。
 腰の腫瘍などで、四年前に胸から下が動かなくなった文枝さんは、「要介護5」と認定されました。腰を曲げると激しく痛むため、ベッドに寝てほぼあおむけで生活。通院や訪問入浴などの際は三人がかりの介助が必要で、家の外に出るのも難しい状態でした。

  昨年二月、町のケアマネージャーから相談を受けた理学療法士(PT)の小森昌彦さんが、用具メーカーの担当者らと岡さん宅を訪問、移動用リフトの選定を行いました。

  小森さんが所属する「兵庫県但馬長寿の郷」は、但馬地区二市十四町と契約を結び、住宅改修や福祉用具貸し出しの相談を受けて、十二人のPT、OT(作業療法士)を派遣しています。

  小森さんは、複数の吊り具の中から、背中などが曲がりにくいタイプを選択。介護している夫の和男さんが、バランスよく文枝さんの体を持ち上げられるように、体を乗せる布地の中心などに糸で目印を付けました。

  今では、リフトで文枝さんをベッドから車いすに移すのに、五分とかかりません。晴れた日は散歩が日課になった。和男さんは、「前は『痛い、死にたい』と言っていたが、明るくなった。リフトを借りて本当に良かった」と話しています。

  無駄になる例も                          東京都板橋区では、福祉用具の適切な利用について、区の「おとしより保健福祉センター」が、地域のケアマネージャーからの相談に応じています。利用者の身体状況や生活環境、何を支援して欲しいかなどを書いた「技術支援依頼票」をファクス送信すると、センターのPTや介護福祉士らが、利用者宅に事業者と一緒に訪問してくれます。訪問件数は、年間約七百件に上るといいます。
 ですが、こうしたケースは少数で、大半の自治体ではアドバイスできる専門家がいないため、用具が無駄になることもあります。「長寿の郷」の職員によると

(1) 室内が狭いのに車輪が大きい車いすを貸与
   
(2)
 
ひざが悪い利用者が、電動ベッドの高さを調節できることを知らずに、低い位置から苦労して立ち上がっている  

 など、適切に使われていない例が珍しくないといいます。厚労省は広域的な相談・支援体制の整備を目指していますが、あまり進んでいません。

 専門相談員の質向上を                     在宅の要介護者の福祉用具レンタルサービス利用率は36%で、訪問介護、通所介護に次ぐ高さです。
 利用の際には、ケアマネージャーが事業者の「福祉用具専門相談員」に相談して用具を選定、相談員が配達や調整、説明を行うことになっています。しかし、四十時間の講習でなれる専門相談員は、「用具を配達するだけの人も多い」(関係者)のが実情です。「長寿の郷」のようにPTやOTが対応するのが理想だが、人手不足などで、そうした仕組みがある地域はほとんどありません。

  厚労省は、不適切用例を示したガイドラインを四月に公表したが、「これだけでは適切な利用にはつながらない」との見方が強くあります。

  福祉用具に詳しいNPO法人「日本シーティング・コンサルタント協会」の吉川和徳理事長は、「在宅部門で働くPTやOTを増やして、訪問リハビリの際に、利用者に合った福祉用具を選定したり、使い方を指導したりできるようにするべきだ。当面は、研修を充実させるなどして、ケアマネージャーや専門相談員の質を向上させるしかない」と指摘しています。

(6月28日 読売新聞)




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